認知症で独居の場合(詳細)
- ■目 次
- 1.はじめに
- 2.認知症との診断がついて
- 3.施設入居を考える
- 4.できる限り自宅で過ごさせてあげたい
- 5.自費の看護サービスをサポートに使う
- 6.生活のペースが見えてきた
- 7.いずれは施設入居も、今はこの状態ができるだけ続けば
1.はじめに
認知症は、加齢に伴う記憶力の低下や物忘れとは違い、れっきとした病気=疾患です。
ところが、病気であるという認識が無く、周囲の人や家族が誤った接し方をすることで、状態を悪化させてしまったり、症状の進行を早めてしまうことがよくあります。自分の家族のように、よく知っているという対象者であっても、認知症に関する知識と理解を持って接することが大切です。医療の専門家が定期的に状態を把握し、アドバイスをもらえると家族としては安心できることも多いはず。
本事例は、ご家族が上手に医療従事者を介入させることで、認知症のお母様が独居のまま、自立した生活を続けている事例です。
2.認知症との診断がついて
認知症の診断がついたのは、もう5年以上前になります。その時点で娘様は、いずれ独居は難しくなるだろう、その時は同居や施設入居なども考えなければならないだろう、と漠然と考えていたそうです。症状の進行によって、独居生活がどのように難しくなるのか、全くイメージがつかなかったようですが、ここ最近の状態を考えると、そろそろ独居は難しいかもしれないと覚悟をされたようです。姉妹が分担して、隔日に顔を出していたのを毎日にしたり、電話を掛けたり、とにかくお母様の状況把握に努めるようにしたとのこと。
お母様は、高血圧や糖尿病など、いくつかの持病をお持ちで薬の服薬は必要なものの、日常生活には全く問題がありません。むしろ80代にしては非常に活発な方だと言えます。しかし、認知症の進行に伴って、最近の記憶が曖昧になることも多く、失禁も見られ始めました。一番気になるのは、服薬を忘れてしまうこと。1週間分を小分けにしてセットしているのですが、訪問すると飲み忘れた薬がそのままになっていることもしばしばでした。
3.施設入居を考える
火の元の後始末も心配であったため、毎晩お母様の就寝前に電話して確認することも習慣となりました。また、できるだけ火を使わないように宅配弁当を利用するようにしたそうです。とにかくお母様を一人で生活させていることがだんだんと心配になり、少しご自分でも神経質になっていたと言います。
このままお母様を独居で生活させていたら、自分の神経が先に参ってしまいそうだと考え、お母様を入居させるための施設を探し始めたのが1年位前のこと。施設にはスタッフが常駐しているので、食事の準備も含め、身の回りのことはほとんどやってもらえます。訪問した施設には明るくて感じの良いスタッフがたくさんいるところもあり、これならばお母様を安心して入居させられるとも考えました。
4.できる限り自宅で過ごさせてあげたい
ところが、施設入居について娘様からお母様に相談したときのお母様の言葉に、娘様の心が揺れました。
「施設の方が安心と言うなら仕方ないけれど、できれば自宅で過ごしたい。」
「他人の世話にならないと生きていけない年齢ということだね。」
施設入居に関しては、お母様は決して否定的ではなかったということです。しかし、もう少し自宅で過ごさせてあげることはできないのか、何か方法はないのか、娘様としてはあと一年間、せめて半年間くらい自宅で過ごした後、施設入居でもよいのではないかと思い始めたそうです。
5.自費の看護サービスをサポートに使う
認知症が進行しているとは言え、お母様の状態としては要介護が付くレベルではなく、当然訪問看護ステーションンも入っていません。それに平日は、姉妹でやりくりしながら顔を出すこともできます。ただ、姉妹ともに仕事を持っているため、せめて土日くらいは休みたいと考えました。ケアマネに相談された結果、弊社のプライベート看護サービスを紹介された娘様は、土日を中心に看護師の目を入れることを考えました。
相談を受けた弊社は、薬の管理など、娘様が行っているケアの中からまとめられるものを、土日に集中してやってしまうことを提案しました。1週間の状態を総括してアセスメントし、1週間分の薬をセット、その他必要なことをまとめてやってしまうということです。
6.生活のペースが見えてきた
弊社の看護師が入って1ヶ月が経過した頃、娘様の介護ペースも無理のない状態になってきました。土日に看護師が入った際のお母様に関する情報を全て娘様にフィードバックし、日常のケアに対するアドバイスもしますから、娘様としては目標を持ってお母様に接することができます。認知症の進行が止まることはありませんが、今すぐ日常生活が送れないということではなかったのです。まだまだお母様に残された“機能=できること”はたくさんあり、娘様が無理なくできるサポートがあれば、まだまだ独居で生活できる状態であったのです。娘様がその可能性を見出せたことが、状況を好転させるきっかけとなりました。
7.いずれは施設入居も、今はこの状態ができるだけ続けば
いずれは施設に入居させる。ご本人も施設入居については前向きに考えています。いつまでも独居で生活できないことは納得されています。今の生活は、十分納得するための時間でもあり、また施設入居に向けて準備の時間でもあります。人としての尊厳を保ちながら生活を送り、認知症が進行しても人としての尊厳を保つ。そのために、今の毎日の生活を一日一日大切に送っているとのことです。そのサポートを看護師が行うというのは、非常に有効だと私たちも改めて感じさせられました。
完
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