訪問介護について About Home Nursing

家族の生活を犠牲にしない、無理をしない介護を志向したご家族の事例詳細

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1.はじめに

「介護疲れ」や「介護うつ」が深刻な社会問題になっている。
 介護する家族が余裕を失うと、本当に心がこもった介護をしてあげることはできないだろう。
 どうすれば「無理をしすぎない家族の介護」を実践できるのか?

 今回取り上げるご家族の事例では、ご主人が"介護チームの司令塔"として家族に介護をうまく振り分けていた。そして障害を持つ奥様と過ごす時間を何よりも大切にされていた。

 一方で、家族にできないことは割り切って外部の介護サービスを上手に活用していた。

 この事例には家族の介護への関わり方について、よいヒントがたくさん含まれていると思う。

2.がんは治るも体が不自由に

 その患者さんは70代の女性で脳腫瘍を発症していた。手術や化学療法、放射線療法を行った結果、幸いにも腫瘍の増大が止まり治療を要する状態ではなくなった。しかしながら、体の片側には麻痺が残った。自分ではベッドから起き上がることも歩くこともできなくなってしまった。
 朝食のときはダイニングでご主人と一緒に召し上がるのを日課にしていた。しかし口から食事を摂ると誤って気管に入り肺炎を引き起こす危険性があったので、主に胃ろう※1によって栄養を摂取していた。また自分では尿意や便意を感じることが出来なかったためオムツを使用しなくてはならなかった。寝返りが打てないと床ずれが生じてしまうので、毎晩、約2時間おきに体の向きを変えてあげる必要があった。
 コミュニケーションの点では、人が話す内容は理解できるのだが、発声することができないために自分の意思を伝えることに苦労していた。周りの人はうなずきや表情から患者さんの意思を読み取っていた。

 ※1.皮膚を貫通し胃へ向けて人工的な孔を開け、栄養チューブを挿入、固定して、そこから栄養を注入する栄養法。

3.ご主人が立てた介護の方針

 訪問看護のきっかけはご主人からいただいたご相談の電話だった。
 その時期は大学病院で脳腫瘍の手術を終えた後にリハビリ病院に転院していて、近々、退院に向けた試験的な外出に挑戦するとのことだった。
 奥様はまだ元気なころから「病院で医療の力を借りてただ永く生きるだけの生活は望まない。病気になっても自宅で家族に囲まれながら快適に過ごしたい。」と希望されていたそうだ。
 しかしながら退院した後はご主人と奥様の二人暮らしになる。ご主人は会社で責任ある立場に就いておられ時々海外に出張することもある。すぐに仕事を辞めて介護に集中することは難しかった。
 ご夫婦には息子さんと娘さんがおり、それぞれに独立してご家庭をお持ちだった。近くに住んではいたのだが仕事や子育てなどで多忙な日々を送っていた。

 このような家庭環境を踏まえてご主人は奥様の介護に一つの方針を立てた。
 それは、「家族全員で出来る限りのことをしてあげよう、けれども決して家族の生活を犠牲にしないこと」というものだった。
 そして私たち訪問看護に望んだのは「妻が自宅で医療的にも精神的にも安心して暮らせる環境づくりに協力して欲しい。」ということだった。

4.奥様とケアスタッフの相性を気にするご主人

 さて、ご主人が訪問看護の利用を検討するにあたって、奥様とケアスタッフとの相性をとても気にしていた。
 在宅ケアは病院や介護施設と違い、「自宅」という極めてプライベートな空間で提供されるものである。しかも患者さんとケアスタッフがマンツーマンになる時間が長い。ゆえに、いくら医療処置が優れていたとしても、患者さんを気疲れさせてしまうようでは良質なケアとは言えない。患者さんとケアスタッフの間に良好な人間関係を構築することがとても重要なのである。
 そこで私たちは退院前の約二週間をトライアル期間と位置づけて、毎日病室へ通うことにした。そして奥様の身の回りのお世話をしながら徐々に奥様との距離を縮めていった。

5.ご家族の無理をしすぎない介護への関わり方

 奥様がご自宅に戻られてからはご家族総動員の介護が始まった。
 ご主人はお忙しい身ではあるが「私はこれまで仕事一筋で家庭を顧みることがなかった。でも、今は妻のことに全力を尽くしたい。」と語り、お仕事のスケジュールを調整して週三回の通院に必ず同行した。ご主人が同行できない日は、息子さんか娘さん家族が代わりに同行した。ご主人自ら毎月の同行者スケジュール表を作って家族や当社看護師に手渡していた。

 一方で、ご主人や家族は決して介護をやりすぎるということがなかった。オムツ交換や入浴などは全て看護師やホームヘルパーに任せていた。なぜならば、家族以外の者に任せるほうが奥様の気が楽なこともある、ということを分かっていたからだ。
 奥様は昔からとても綺麗好きで几帳面、完璧主義の人だったそうだ。ご家族だけで過ごすときでも身だしなみはいつも綺麗に整えていた。そんな奥様の性格を考えると、昔の元気なころの自分を知っている身内の者に対して、オムツを交換される姿をさらすのは辛いだろうと、ご主人が配慮されたのだった。

6.奥様とご家族のプライベートタイム

 その代わりに、ご家族は奥様と一緒に過ごす時間をとても大切にされていた。毎日お仕事に出かけるご主人だったが、出勤前や寝る前のひとときだけでもご夫婦だけで過ごしたいと望んだ。
 そこで看護師はご主人の帰宅前までに夕方のケアを全て終えておくよう心がけた。そうすればお二人だけの時間をケアで邪魔しなくて済むからだ。また夜間のオムツ交換を行なわなくてもよいように、介護用品メーカーからサンプルを取り寄せて特別に吸水力・保水力に優れたオムツを用意した。夜間のケアを減らして、翌日のご主人のお仕事に差し支えないようにと考えたのだ。

 息子さんや娘さん、そしてそのご家族も毎日のように代わる代わる奥様に会いに来ていた。
 玄関のチャイムが鳴り「ご家族が見えましたよ」とお伝えすると奥様の口元に笑みが浮かぶ。そして鏡の前で髪を気にするような仕草を見せ、早く顔を見たそうにそわそわし出すのだった。
 ご家族と過ごす時間はリビングでお孫さんの写真を見て盛り上がったり、ご家族が車椅子を押して近くの公園まで散歩に行くこともあった。ご家族全員が寂しがり屋の奥様を一人にしないよう心がけていた。

7.思い出の地へ家族旅行

 退院から6ヶ月ほど経った真夏の盛りに、ご主人が「妻を連れて3泊4日の旅行に出かけたいのだが。」と言った。その頃にはリハビリも順調で旅行に耐えられるほどに体力が回復していた。そして旅行の間も看護師が付き添うことを望まれた。
 看護師は事前に宿泊するホテルの下見を行い、車いすの動線やバリアフリートイレの位置を確認した。また、奥様をお風呂に入れるためにホテル側と交渉して大浴場を一時間だけ貸し切った。ホテルには医療処置に必要な胃ろう機材や吸引器、とろみ食、薬、衣服、オムツなどを一式まとめて持ち込むことにした。
 旅行のメンバーはご夫婦と息子さん家族、娘さん家族も全員参加して大人数になった。
 3台の車に分乗して高速道路を2時間ほど走りインターチェンジを降りると、辺りはもう緑溢れる高原の観光地だった。飲食店や観光施設が立ち並ぶエリアから少し離れたところに目的のホテルはあった。木々が生い茂る広い森の中にホテルは建っており森に向かって遊歩道が続いていた。奥様を連れて散策すると夏なのに空気がひんやりしていて心地よかった。
 旅行中の奥様はとてもご機嫌でよほど楽しかったのか、めったに出すことのない声を何度も発していた。
 ご主人は久しぶりの家族旅行が実現したことに大変満足されていた。
「ずっとここに連れてきたかった。子供達がまだ小さいときからよく来ていた思い出の場所なんだよ。」

 旅行から帰った後も奥様の全身状態は安定しておりリハビリも順調に進んだ。居室からリビングまで介助を受けながら歩行することができるようになっていた。
 やはり家族旅行に行ったことが良い刺激となって療養への意欲を高めたのかもしれない。

8.最後に

 この事例においては"家族のキーマン"の存在がとても大きい。
 ご主人の適切なリーダーシップがあるおかげで、家族は無理をしすぎないバランスの取れた介護を続けていけるのだと思う。奥様もご家族の介護にきっと満足しているだろう。

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