入院中の一時帰宅
- ■目 次
- 1.はじめに
- 2.入院中の母親を自宅に帰したい
- 3.1回目の一時帰宅 (病院から自宅、そして自宅での生活)
- 4.2回目の一時帰宅 (1回目の一時外泊を終えての自宅生活)
- 5.一時外泊での想いとこれからのこと
1.はじめに
『新しい年は病院ではなく、住み慣れた自宅で新年を迎えさせたい。』
そういった家族の強い想いから今回の入院中の一時帰宅のプランが立ち上がりました。
しかし、いざ自宅までの道のりのことを考えると
『自宅にトラブルなく帰宅できるのだろうか・・・』
『帰宅の際の介助はどうすればよいのだろうか・・・』
『自宅から病院へ戻る際はどうすれば良いのか・・・』
病院から自宅、そして病院へ再度入院することを考えると実際は多くの不安や心配事が頭の片隅によぎるのが現状です。結果、自宅へ帰宅させたかったができなかった。病院で入院してもらっていたほうが安心ではないのかといった結果になりうることがあります。
今回のケースでは、帰宅時の介助である「点滴の管理」「痛みのコントロール」「人工肛門」の管理など医療知識がない人間にとっては難題です。
現在の公的保険は仕組みがしっかりとしており、日常生活にかかわる基本的なことは満たされることは多くなってきてはいます。
一方で、公的保険では賄いきれない領域はまだまだ多く存在しており、結果要望が満たされず、悔しい思いをする方も多くいらっしゃるのが現状です。
今回はそのような公的保険で埋めることができなかった保険のスキマを自費の看護サービスで支援させていただいた事例です。
2.入院中の母親を自宅に帰したい
早期にて退院予定であった入院が考えていたよりも長期化することが判明。このままだと年末年始の時期も入院生活となる母親。息子さん夫婦はそのような状況を受け、せめて新年だけは母親の住み慣れた自宅で過ごさせてあげたいと考えました。
しかし、実際に一時帰宅をするには多くの問題があり、一時帰宅の計画を頓挫しなければならない可能性もありました。
「自分たちだけでは計画が進められない」息子さん夫婦は、悩み、考え入院中の病院の看護相談室の担当者と何度も打ち合わせを行い、自分たちの想いを相談室の担当者へ幾度となく話をしました。看護相談室の担当者は、ご本人の体調、息子さん夫婦の生活のこと、自宅での療養環境を考えると無理に自宅に帰すことはないと当初は考えていましたが、このような息子さん夫婦の強い想いがあればと一時帰宅の手筈を整えることにしました。
病院からの一時帰宅の許可がでたとはいえ、息子さん夫婦が乗り越えなければならない課題は数多くあり、その多くの課題はクリアーされていませんでした。例えば、病院からの帰路・帰宅時の療養環境・再度病院へ戻る際のルートの確保等。なによりも一時帰宅中の自宅での安全の確保についてどうすれば良いのか等、課題は多く残っていました。現在の公的保険制度では一時外泊・一時帰宅中の際は公的保険が利用しづらい環境となっており、今まさに公的保険では賄いきれないスキマジレンマに襲われてしまっていたのでした。
そのような状況の中、息子さん夫婦は病院の看護相談担当者より「今回の一時帰宅について自費での看護サービスを利用したらどうか」とひとつの提案を受けました。
自費の看護サービスを利用し、年始の一時帰宅が可能になるのであれば、一度利用してみようと息子さん夫婦は考え、当社へ連絡していただきました。
3.1回目の一時帰宅 (病院から自宅、そして自宅での生活)
息子さん夫婦は今回の一時帰宅のプランを当社へ相談されました。今回の一時帰宅の最大の目的は『年始を自宅で迎える』ことでしたが、実はその前に一度自宅での生活が可能か否か試したいと考えていました。そのため、帰宅のタイミングを2回検討していたのです。1回目を1泊2日で行い、1回目の帰宅が成功し問題がないようであれば、最大の目的である『年始を自宅で迎える』というプランを考えていらっしゃいました。
電話での相談を受けた当社の看護師は、息子さん夫婦の要望とご本人様の要望をより詳しく取り入れるために早速ご本人様がご入院されている病院へ向かい、ご本人様と息子さん夫婦を交え一時帰宅に関するプランニングを行いました。病院から自宅へ帰るまでの方法・自宅へ戻った際の療養方法、病院へ戻る際のルート等、また当社看護師が何よりも配慮をしたのがご本人様の帰宅時の安全を確保するためのプランでした。
事前プランニングを終え、一時帰宅当日を迎えました。出発前に病院にてご本人様へのバイタルチェック等を行い病院から自宅へ出発。自宅までの移動中は大きなトラブルもなく、無事自宅へ到着しました。もう一つの懸念事項であった自宅療養での環境は看護師が整え、ご本人様が安心して過ごせるよう配慮をしました。試験的な帰宅とはいえ、自宅へ帰宅させてあげたいという思いを強く望んでいた息子さん夫婦はとても喜ばれていました。また、看護師が細かな部分の療養環境を整えたことにより、ご本人様も自宅での生活が快適に過ごされていた様子でした。自宅での生活中も大きな問題はなく無事病院へ戻ることができました。息子さん夫婦は当初「本当に帰宅できるのか」という不安感が拭えなかったようでしたが、1回目の一時帰宅を経て年始も大丈夫という確信をもったようでした。ご本人様と別れ、最後に息子さんご夫婦との会話をした際、息子さんご夫婦より「次回もぜひお願いします。」と明るい笑顔でお話をいただきました。
4.2回目の一時帰宅 (1回目の一時外泊を終えての自宅生活)
最大の目的である『新年を自宅で迎える』という2回目の帰宅の日が迫ってきたある日、息子さん夫婦より当社へご連絡がきました。「1回目は母親を自宅へ帰宅させてあげられるという期待と、本当に可能なのかという不安感も多くあったが、前回のように行えれば安心して帰宅することができます。ぜひ当日もよろしくお願いいたしますとのことでした。その際、看護師からは3つの提案を息子さん夫婦へお伝えしました。
確かに1回目の帰宅時には大きなトラブルもなく無事帰宅することができたのですが、帰宅時にご本人様が生活する際、ストレスを感じている様子がありました。
看護師からの提案はそのストレスを感じている部分を解消し、より快適に過ごすための提案でした。
・1つめはベッドサイドに柵を作っていただくこと。
・2つめはトイレの便座の位置を高くしてもらうこと
・3つめは入院時、病室で利用されている加湿器を自宅生活時も利用することでした。
ご対象者様は自らで歩くことは可能であるものの、寝ている体勢から起きることや、座った姿勢から立ち上がることに困難を感じていたようでした。ベッドに柵を作ることにより寝ている体勢から起き上がる動作をよりしやすくします。便座を高くすることにより座っている体勢から立ち上がるまでをスムーズに行うことができます。
小さなことですが、ご本人様は行動をするたびにストレスを感じていたようでした。
快適な自宅生活をしていただく為には、本当にちょっとしたことですが解消できる部分をしっかりと提案し、改善することが必要です。看護師はそのような個所を見落とすことなく、1回目の帰宅の際に確認していました。また、3つめの加湿器についてはご対象者様が病院で常に保っている室温を保ち自宅での生活をより快適に過ごせるようにとの配慮でした。息子さん夫婦は帰宅時に母親がストレスを感じない環境を作れるのであればと看護師からの提案をすぐに受け入れていただきました。息子さん夫婦の協力体制もありスムーズに今回の帰宅計画は進みました。年始の帰宅のため、親族の方一同が集まられ有意義な一時帰宅となった様子でした。多少の疲れも見えたもののご本人様は無事病院へ戻られ、とてもうれしそうな様子をされていたのがとても印象的でした。また、ご依頼者の息子さん夫婦も同様にとても喜ばれていた様子でした。病院へ戻られた際、ご本人様より看護師へ
「自宅での生活が本当は不安でした。しかし看護師さんに24時間しっかりとそばに付き添ってもらえたので本当に安心できた。こんなサービスがあるのは画期的ですね。このサービスがあればいつでも家に帰れます。」という感想をいただきました。また、息子さん夫婦からも「こんなに上手く帰宅ができるとは思っていなかった。病院から自宅まで、また帰宅時の深夜までしっかりと寄り添ってもらうことにより本人はもとより私たちも非常に助かりました」との感想をおしゃっていただきました。
5.一時外泊での想いとこれからのこと
今回の一時帰宅を経て、息子さんご夫婦は在宅での療養看護も可能なのではないかという実感を得たようでした。今回の一時帰宅は今後の療養生活のひとつの過程であって終着点ではありません。当然ながら息子さんご夫婦は退院後のことも深く考えており、「退院後にどのようにしていけばいいか」ということは常々おしゃっていました。息子さん夫婦は退院後の自宅療養は難しいのではないか、残念だが施設への入居等も検討しなければならない、とも思っていたようでしたが、今回の件があり自宅での生活が可能なことだと強く確信したようでした。今回は部分的な関わりでしかないのですが、その一瞬の関わりの中でご家族の希望に沿い、その想いに応えられるということは私たちにとって、とても喜ばしいことです。
もしまた、息子さん夫婦よりお話があった際は、関わりのあるご家族に、もっと多くの希望をもっていただけるようなサービスのご提供ができるようにと思っています。
完
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