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退院直後の家族支援の事例

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1.はじめに

  病室で寝たきりになって徐々に弱っていく親を目の当たりにすると、子なら誰しも「何とかしてもう一度家に帰してあげられないか」という思いを抱くことでしょう。

  しかしながら実際には、在宅での介護に不安を覚え二の足を踏んでしまう家族が多いのも事実です。親が高齢であれば子もその分年齢を重ねています。毎日、昼も夜も親の介護が続くことを想像すると、このまま病院に居させてもらう方が安心だ、それとも介護施設に入れてもらうのが現実的ではないか、と思えてきます。

  しかし「自費の訪問看護」という選択肢をご存知であれば話が違ってくるかも知れません。

  今回は退院直後、患者さんの容態が不安定で家族に大きな負担がかかる自宅介護の初期段階に、自費の訪問看護で家族介護を支援させていただいた事例です。

2.寝たきりの父親を家に帰したい

  父親が倒れた、との連絡を受けて娘のJ子さんは仕事場から急いで病院に駆けつけました。そこで目にしたのは、病院の集中治療室のベッドに寝かされ24時間体制の医療管理下に置かれた父親の姿でした。脳梗塞でした。
  今朝、寝室から起きてきた父の顔は普段と変わらず元気そうだったのに・・・。
  あまりにも急に、変わり果てた姿になってしまった父親を目の前にしてJ子さんは強いショックを受けました。

  父親の年齢は既に90歳を越えています。難聴ぎみで、高血圧であり、膝関節痛で外出が減るなど年相応に老化は進んでいたとはいえ、これまで大病を患ったことは一度もありませんでした。

  若くして事業を起こした父親は40年もの間ほとんど休むことなく、会社を大きくするために働き続けました。そのせいでJ子さんは幼い頃に父親と遊んだ記憶がほとんどありません。けれども、父親は15年前に会社の経営を後進に任せてから一線から完全に退き、J子さんの母親と共に都内の自宅で静かな毎日を過ごしていました。

  J子さん夫妻は、数年前ごろから母親の認知症が進行したため、両親の家に同居して母親の介護を行っていました。
  J子さん自身も70歳を越えた高齢者であり、母親の世話をするのは大変だったものの、J子さんは家族が毎日顔を合わせることができる生活に喜びを感じていました。

  父親が倒れたのは、そんな家族の幸福の時間を打ち破る悪夢のような出来事でした。

  大学病院で治療を受けた父親は幸いにも一命を取りとめましたが、嚥下能力(ものを飲み込むための口や喉の機能)が低下したため、胃瘻を造設してそこから栄養を摂取する状態になりました。
  その後、リハビリを目的に転院した自宅近くの病院で肺炎を繰り返してしまい、予定よりも大幅に入院期間が延びてしまいました。高齢で体力面にも不安があったため病院側は積極的なリハビリを施すことができませんでした。そして身体機能は次第に衰えていったのでした。

  とうとう寝たきりとなった父親は、生活の全てに介助が必要になりました。意識ははっきりしており理解力も正常ではあるものの、脳に障害が残り言葉を話せなくなりました。
  また、全体的にぐったりとして活力が低下した状態になり、父親の意思を確認したいときは耳元で話しかけて、わずかなうなずきが返ってくるのを見落とさないよう注意深く見ておかなくてはなりませんでした。

  J子さんは、父親が身動きもろくに取れなくなった体で、病室で一人寂しい思いをしているのではないかと気に病み、なんとかして退院させて自宅で療養することができないかと考え始めました。
   一方で、家族の介護力に限界があることが分かっていた病院の看護相談室のナースは、最初はこんな状態の患者を退院させることに乗り気ではありませんでした。
   それでもJ子さんから何度も相談を受けるうちに、そこまで家族が望むのであればと、訪問看護や介護サービスを利用する手筈を整えてくれたのでした。

   こうして、やっとのことで父親はJ子さんら家族が待つ家に帰ってきました。
  父親が病院に運び込まれたのは北風が吹く寒い冬の日でしたが、退院するころには徐々に陽射しが強まりつつある初夏の季節を迎えていました。

3.夜中の大声で飛び起きる家族(退院直後~2週間)

 訪問看護師は、退院のその日から一日二回、朝と夕方にご自宅への訪問を始めました。

   「父が戻ってきたのは嬉しいのだけど・・・。退院してからというもの、私たち、ろくに眠れてないのよ。」父親の退院直後は、J子さんの顔には明らかに介護疲れの色が浮かんでいました。

   体力が衰えた高齢者は、昼間に覚醒していられる時間が短くなり、まだ日が高いうちからうつらうつらを始めることがあります。逆に夜になるとぱっちりと目が覚めてしまうのです。丸まる二日間も眠り続けて三日に一回だけ起きてくる、という具合に睡眠のリズムが変わってしまうこともあります。

   日中でも父親が眠ってしまうと、J子さんは部屋の明かりを消して静かに退出します。よく眠れるようにという配慮なのですが、夜半に一人で目を覚ました父親は、周りが暗くて、しんと静まり返っているのが不安なのか、あるいは痰がすっきりしなくて苦しいのか、遅い時刻であるにも関わらず、
「あーっ!」と大声を発しました。
毎晩、その声に驚いてJ子さんと夫は飛び起きるのでした。

   元々認知症の母親のお世話をしていたJ子さん夫妻は、昼夜逆転した父親の介護も担うようになったことで、一層負担が大きくなってしまいました。

   J子さんからの訴えを聞いて、訪問看護師は夜に眠気がくるように昼間にさまざまな刺激を与えてみることにしました。
   天気の良い日には車椅子でベランダに出て日の光を浴び、体内リズムを調整しようとしました。
   その他にも自宅でできるリハビリを始めました。ベッド上で寝たまま手足を伸縮させ関節の動きを滑らかにする運動を取り入れ、車椅子では腕の上げ下げや足でゴムボールを蹴る筋力トレーニングを行ないました。

   また、長年寄り添ってきた奥様の存在も、患者さんに良い影響を与えてくれました。
   奥様は認知症のため歩行時に少し安定を欠くことがあります。それでも壁を伝うようにしてご主人の部屋まで辿り着き、寝ている夫に毛布をかけ直してあげるのです。
   人の気配で目を覚ましベッドサイドに妻の姿を見つけたご主人は、手を伸ばして彼女の手を探り当てると自分の顔まで持ってきて頬ずりしました。
   お父さんがいつまでも眠れないからもう一人にしてあげようよ、と言って家族が無理にでも母親を別室に連れていくまで、二人はいつまでも離れようとしないのでした。

4.父親に表情が戻ってきた(退院から1ヶ月後)

 退院から1ヶ月が過ぎたころから、父親に少しずつ変化が見られるようになりました。

   その頃には、簡単な問いかけに対して正確にYES/NOを返せるようになりました。これは退院直後には見られないことでした。

   リハビリの成果も出始めており、自分で口の周りをティッシュで拭うことができるようになりました。
   周囲に人がいないと寂しがって家族の腕を必死に引くような行為が見られたり、看護師が夕方のケアを終えて退出しようとすると不安げな顔をするようになりました。これらは感情を表わせるようになったという点で進歩だと言えます。

   また、この時期にJ子さんの希望で、訪問看護師の滞在時間が毎日朝の9時から夕方の6時に延長となりました。
   それまで昼間は家族が行なっていたケアを訪問看護師に代わることで、J子さん夫妻は自分だけのプライベートタイムを持てるようになりました。

5.家族と過ごす時間が良い刺激に(退院から2ヶ月後)

 退院から2ヶ月後には、日中の刺激によって覚醒時間が長くなり、以前より夜に眠っていることが多くなっていました。
   また、全体的に表情がしっかりとしてきて、ベッドを指差して看護師に「戻りたい」という合図を送ることもできるようになりました。

   リハビリとしては、車椅子で散歩に出かけて1時間ほど座ったままの姿勢で過ごすようにしました。
   家に戻るとベッドで少し休息を取った後、端座位の練習を行ないました。これは背もたれを使わずベッドの端に腰掛けて自分の背筋と腹筋だけで体を支える力をつける訓練で、この姿勢が5分間続けられるようになることを目標にしました。
  また、ベッド柵にはラジオを設置しました。それは娯楽であるとともに聴覚からの刺激を与えることも目的にしていました。

  さらに毎日1時間は家族との時間を設けることにしました。これもJ子さんのリクエストによるものでした。その間だけは看護師は別室で待機することもあります。
  家族の時間には、父親はリビングのソファに奥様と並んで座り、手を繋ぎながらテレビを見ています。または昔の写真を眺めたり、ときには絵を描き、コーヒーを飲んだりしています。
  父親は言葉を失っていますが、J子さんが一生懸命になって父親に話しかけを行い、コミュニケーションを取ろうとする姿も見られます。

  このようなリハビリや刺激のかいがあってJ子さんが、お父さん外出するよ、と声をかけると、父親はベッドから笑顔で手を振るようになっていました。

  一方で、痰の量が多いことには変化がなく、夜間も家族が吸引を行う日々が続いていました。
  寝たままの姿勢で痰が絡むと血中の酸素飽和度が80%を切ることもあります。個人差があるものの正常値は100?95%だと言われており、80%を切るという状態はとても苦しいだろうと思われます。吸引して車椅子に座ってもらうと数値は安定するものの、一時間もしないうちにまた痰が絡み始めるのでした。

6.娘さんに生まれてきた余裕(退院から3ヶ月後)

 3ヶ月が経過しても、父親の昼夜逆転傾向は完全に無くなることはありませんでしたが、かなり日常生活動作に回復が見られるようになりました。
  退院直後は全くの寝たきりだったものが、腕の力が強くなり、背筋力もアップして端座位を保てるようになりました。

  J子さん夫妻は、父親の回復が目に見えて分かるようになってきたことを大変喜んでいました。家族にも介護への慣れが生じて、言動にも余裕が感じられるようになっていました。

  訪問看護師としてその他に気をつけているのは父親のコミュニケーションの問題です。
  父親は意思疎通がままならないことから欲求不満を抱えがちです。そこでコミュニケーションを取る際には父親にストレスを感じさせないように、様々な配慮を必要とします。
  例えば次のようなことです。
・話しかけるときは聴こえの良い耳の方向から話すこと。
・話す言葉ははっきりと、急がずに、時にはジェスチャーも入れること。
・父親が聞いている様子を確かめながら、考えているときは待つこと。
・もし疲れが見えたら会話を中断すること。
・何かを訴えようとしたときは傾聴して、また確認のために声に出して復唱すること。
・分からないのに理解したフリをしないこと。
・抽象的な、冗長な話し方は避けること。
・時には「○○と△△のどちらがよろしいですか?」と自分自身の意思決定を促す質問を入れること。

7.これまでの成果とこれからのこと(退院から4ヶ月目の現在)

 現在は退院から4ヶ月が過ぎ、安定した良好な状態が続いています。

  最後にこれまでのケアについての振り返りと、これからのことについて次の3点にまとめたいと思います。

1)これほどまでに日常生活動作が大幅に回復した要因は何だったのか。
  まず自宅と病院との環境の違いが挙げられると思います。
  自宅では生活の中でいろいろな刺激を受けることができます。また、家族に囲まれている安心感も大きな心の支えとなり、これらが回復への意欲につながったのだと考えています。

  次に自宅に戻った後のリハビリが成果を挙げたことです。病院や専門施設でなくても工夫次第で自宅であってもリハビリを行なうことができます。

  自宅生活の刺激でリハビリにも挑戦する意欲が生まれ、毎日少しずつでもリハビリ運動を続けたことで日常生活動作の回復への好循環につながったのです。

2)家族の介護負担を軽減することができたのか
  娘のJ子さんは、父親が目に見えて回復していることによって、自宅介護に対する自信を持てるようになったと思います。そして父親を家に帰して家族で介護する、という自分自身の決断に満足しているようです。

  夜間の介護負担はまだ完全に解消できていませんが、状態は安定しています。

  ご家族にも余裕と安心感が生まれており、父親のケアは看護師に任せて朝から外出することも多くなってきました。

3)今後のケア目標について
  主治医や看護師は父親が高齢であることを考慮し、次のような無理のない目標設定が適切だと考えています。
・現在の良い状態を長く維持すること
・家族と過ごす時間を長くとれよう支援すること

  しかしながら家族は、少しずつでもいいから今よりももっと身体機能の回復を図って欲しい、という思いを抱いているようです。
・車椅子に移乗する際に自分の足で踏ん張れるようになって欲しい
・昼間起きている時間が長くなって欲しい

  家族との意見の相違についてはすり合わせが必要ですが、医療従事者はご家族の思いを可能な限り汲み取って、安全性を担保しながら患者さんと家族の生活の質と満足感を向上させるのが役割だと考えています。

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